共感力の高さゆえの疲弊 〜相手の気持ちを感じ取りながらも、自分の感情を見失わないためには?〜

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共感力の高さゆえの疲弊
〜相手の気持ちを感じ取りながらも、自分の感情を見失わないためには?〜

*はじめに

「人の気持ちが流れ込んでくるみたいで、胸がぎゅっとなる」
「相手の悲しみをわかるほど、自分の気力が削られていく」
「助けたいのに、気づくと自分がいっぱいになっている」

——そんな経験はありませんか。
それは、あなたの豊かな共感性の表れです。共感は人と人をつなぐ“橋”。同時に、橋の手前に**自分の岸(自分の感情・体・時間)**が必要です。岸が曖昧になると、他者の感情の波がそのまま押し寄せ、疲弊につながります。

ここでは、共感の美しさを守りながら自分の岸を保つ方法を、理由と意味を添えて丁寧に解説します。

1. なぜ「共感の高さ」が疲れに変わるのか
(1)情動伝染:相手の感情が“体で再生”される

他者の表情・声色・言葉に触れると、私たちの神経系は自動で反応します。これを情動伝染と言います。

意味:共感は“理解”だけでなく“身体の反応”でも起きる。だから理屈で割り切っても疲れるのは自然なこと。

ポイント:体の反応に気づくこと(呼吸・胸の圧迫・肩のこわばり)が、境界を回復する第一歩。

(2)役割の混同:「寄り添う」と「背負う」の入れ替わり

「助けたい」という善意が、いつの間にか相手の課題を自分の中に抱える形に変わることがあります。

意味:背負うほど、相手の自律の機会を奪い、自分は消耗する“二重の損失”。

ポイント:支援の目的は“相手が自分の力を使えるようにすること”。

(3)フォーン反応(過適応):安定のために“合わせすぎる”癖

人間関係の緊張を避けるため、相手に合わせることで場を保つ反応(Fawn)が働くことがあります。

意味:安全のための学習として身についた知恵。責める必要はない。

ポイント:今の自分に合う“新しい安全策”(境界・休息・言語化)へ更新する。

2. 自分の感情を見失わないための「原則4つ」

所有の原則:感情は“持ち主”がいる

「これは相手の気持ち。私はそれを“感じ取っている”。」

ペースの原則:速く共感しすぎない

一呼吸おく=自分のペースを取り戻す小さな儀式。

同意の原則:相手の世界に入る量を自分で決める

「今は聴ける」「今日は短時間だけ」——量と時間の合意。

十分性の原則:「理解しようと努める」は十分な貢献

“完璧に救う”のではなく、 “十分に寄り添う”。それで良い。

3. 5ステップ・プロトコル:感じ取りながら自分に戻る

Step A|Notice(気づく)
体の信号に注目:呼吸の浅さ、胸の圧、肩の緊張、こめかみの熱感。

合図になったら「今、私は反応している」と心でつぶやく。

Step B|Name(名前をつける)
言葉に落とす:

「私は不安を感じている」/「相手の悲しみを受け取って胸が重い」
意味:言語化は神経系を落ち着かせ、境界を再描画する。

Step C|Normalize(正当化する)

「感じやすい私は正常。これは共感が働いているサイン。」
意味:自己否定は反応を強める。正当化で過剰反応を緩める。

Step D|Need(必要を確かめる)

「今の私に必要なのは? 水・深呼吸・少しの沈黙・姿勢を整える?」
意味:自分のケアを先に満たすと、相手へ穏やかに戻れる。

Step E|Navigate(関わり方を選ぶ)

「あと10分だけ聴ける」/「今日はここまで。続きは改めて」
意味:時間・量・方法を選ぶことが“自分の岸”を守る。

4. からだで整えるミニ技法(理由も一緒に)

4–6呼吸:4秒吸って6秒吐く×5
 意味:吐く息長めで副交感神経優位→情動伝染のブレーキ。

グラウンディング:足裏・椅子の支えを10秒感じる
 意味:「私はここにいる」という位置感覚が境界の土台。

オリエンティング:部屋を見回し、3つの色・2つの音・1つの匂いを数える
 意味:“今ここ”への回帰で過去の痛みの再生を止める。

バタフライ・ハグ:左右の鎖骨下をトントン
 意味:両側刺激で感情の波を左右に分配=鎮静化。

5. 会話のミニ台本(やさしい境界と言葉)

聴き始め

「話してくれてありがとう。まずは落ち着いて聴くね。」

負荷が高まった時

「続きも聴きたいけれど、いったん水を飲ませて。ちゃんと聴きたいから。」
(=自分のケアを宣言してから継続)

時間を区切る

「今日はあと10分話そう。必要なら次の時間を一緒に決めよう。」

解決を背負いそうな時

「私が全部はできないけれど、あなたが選ぶのをそばで支えるよ。」

終わりの合図

「ここまで聴けてよかった。続きは明日メッセージで確認しよう?」

意味:言葉に“量・時間・立場”を埋め込むことで、
境界を関係の中で見える化できる。

6. 日々の“共感バッテリー”管理表(1週間プラン)

朝(1分)

今日の心の天気:☀/⛅/☂

エネルギー残量(0–10):__

昼(30秒)

4–6呼吸×3セット

体の信号:肩/胸/みぞおち(○で囲む)

夕方(1分)

今日、誰の感情を強く受け取った?(名前 or 場面)

私の感情は?(嬉/悲/怒/不安/安心…)

夜(3行日記)
1)印象に残った会話
2)その時の私の体・感情
3)明日、自分の岸を守る1つの行動

意味:記録は“自覚”を育て、自覚は選択を可能にする。

* よくある心のQ&A

Q1. 相手のつらさを聴くと、自分も沈んでしまいます。
A:沈むのは情動伝染の自然反応。まず体の信号に気づく→名前→呼吸。
終わったら“締めの儀式”(手を洗う・窓を開ける・短い散歩)で切り替えを視覚化しましょう。

Q2. 共感しないと冷たい人だと思われそうです。
A:「同じ痛みを持つこと」ではなく「その痛みの意味を理解し尊重すること」が共感。
言葉で示すなら——

「その出来事があなたにどれだけ重かったか、想像して胸が痛い。」
理解の表明=十分な共感です。

Q3. 聴いているうちに、解決案を出さずにいられません。
A:まず感情→ニーズ→次の一歩の順で。

「今の感情は?(悲しみ)」「何が大切?(安心)」「小さくできること1つ?」
順番を守るほど、背負わずに前へ進めます。

Q4. 自分の感情がわからなくなります。
A: “快・不快”の二択からでOK。体の言葉(重い/温かい/広がる/縮む)で表現してみて。
意味:ラベリングは神経系の鎮静と境界の再構築に直結します。

Q5. 人と関わったあとは、ぐったりして動けません。
A:それはバッテリー切れ。回復も予定に入れて“仕事”扱いに。
15分の昼寝/湯船/自然音/香り。
意味:回復は贅沢ではなく、共感を続けるための必須投資です。

*おわりに:共感は「癒し」にも「道標」にもなる

あなたが感じる痛みは、人を大切にしてきた証。
だからこそ、自分の岸を整えましょう。
岸がしっかりしているほど、あなたの橋(共感)は遠くまで、長く、やさしくかかります。

🌷 今日の小さな一言
「私は感じ取れる。だからこそ、私に戻る。」

🌿 カウンセリングという“岸を整える時間”

「相手の感情に飲み込まれてしまう」
「背負いすぎて息切れしている」
「共感はやめたくないけれど、このままでは苦しい」——

そんなときは、どうかひとりで抱えずに。
Amazing Grace のカウンセリングでは、
共感の力を“疲れない優しさ”へと再設計するお手伝いをします。
一緒に、あなたの岸(境界・呼吸・言語化・日々の儀式)を整えていきましょう。